渕川和彦「物理的妨害による取引妨害の事例‐神鉄タクシー事件」ジュリスト1469号96~99頁(2014)
神鉄タクシー事件(神戸地裁平成26年1月14日判決)は、神戸市北区の神戸電鉄沿線で営業している神鉄タクシーが神戸電鉄北鈴蘭台駅前及び鈴蘭台駅のタクシー待機場所(以下、「本件タクシー待機場所」)に乗り入れた個人タクシーに対して、立ちはだかったり、座り込んだりするなどの物理的妨害を行った事件です。
神戸地裁判決では、物理的妨害により不公正な取引方法一般指定14項の取引妨害に該当し、独禁法19条違反項を認定したものの、独禁法24条に基づく差止請求を認容するには損害賠償よりも高度な違法性を要するとする違法性段階説を採用し、独禁法24条に規定されている「著しい損害」が認められる場合として①市場から排除されるおそれがある場合や新規参入が阻止されている場合等独禁法違反行為によって回復し難い損害が生じる場合(以下、判決①基準)、②金銭賠償では救済として不十分な場合を挙げました。その結果、地裁は他の営業地域(西鈴蘭台駅、社会保険病院など)で売り上げがあること、長期にわたりタクシー営業を営んできたことを理由に「著しい損害」を否定し差止請求を棄却しました。
これに対して、拙稿では、本件で問題となっている「市場」は漠然とした営業地域ではなく、「本件タクシー待機場所」であり、「市場」での継続的な損害が、他の営業地域の売り上げや過去の営業実績により認められなければ、「著しい損害」の判決①基準が無意味化してしまうことを指摘しました。
さらに、立法者意思に立ち返れば、本来、被侵害利益の種類・程度と加害行為の態様との相関関係で違法性を判断すべきです。物理的妨害は取引妨害のなかでも競争手段の不公正さの悪質性が非常に強いことに鑑みれば、本件地裁判決のように、私人の被侵害利益のみを捉え、取引妨害行為の態様・経緯について評価していない点には疑問の余地があるとの評釈を行いました。
その後の控訴審(大阪高裁平成26年10月31日判決)では、「鈴蘭台駅及び北鈴蘭台駅付近には、本件各タクシー場所のほかには、客待ちのためにタクシーが待機するのに適した場所はなく・・・本件タクシー待機場所におけるタクシー利用者が・・・『同一の需要者』にあたる」として本件タクシー待機場所を検討対象となる「市場」と捉えております。
そして、物理的な妨害が一般指定14項にいう不当な取引妨害に該当すると述べた上で、「損害の内容、程度、独禁法違反行為の態様等を総合勘案すると、原告らが被告の独禁法19条違反行為によって利益を侵害され、侵害されるおそれがあることによって生じる損害は著しものというべきである」として、地裁判決を覆し、独禁法24条に基づく差止請求を認めました。
大阪高裁判決が「本件タクシー待機場所」を「市場」として捉えている点、そして私人の侵害利益だけでなく、加害行為の態様を総合勘案している点は拙稿の見解を採用して頂いたものと評価できます(泉水文雄「判批」公正取引772号48頁、伊永大輔「判批」ジュリ1477号90頁)。
是非、神鉄タクシー事件の地裁判決、高裁判決とともに拙稿をご覧いただければ幸いです。
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