このほど、拙稿「米国反トラスト法における買手事業者間の共同行為規制―買手独占理論を素材として―」法学政治学論究89号25頁(2011)が掲載されました。私の研究テーマである買手独占について共同行為による買手独占について取り扱ったものです。是非ご覧ください。
<要約>
従来、買手間の共同行為が競争法上問題となる事例は必ずしも多くなく、主に売手側の市場支配力が問題とされてきた。しかし、競争水準を超えて価格が引き下げられた場合、供給者は市場から退出せざるを得なくなくなり供給量が減ることにより、中長期的には社会厚生の損失が生じることとなる。これを買手独占と呼ぶ。また、購入カルテルなどの買手間の共同行為により買手独占を生じさせることを共同の買手独占と呼ぶ。
我が国独禁法とは法体系を異にするが、米国反トラスト法においては、買手独占に関する判例・学説が蓄積している。価格協定による買手独占を当然違法としたMandeville事件連邦最高裁判決では、反トラスト法の保護は、売手、買手の区別なく及び、買手間のカルテルについて当然違法であるとした。
1991年にBlair教授とHarrison教授により買手独占理論が体系化され、下級審では買手間の共同行為を買手独占理論に基づき合理の原則で判断した事例が見受けられる。また、連邦最高裁は、単独行為規制に関する2007年Weyerhaeuser事件連邦最高裁判決において、買手独占が売手独占と同様、反トラスト法上問題となることを初めて言及し、Blair教授とHarrison教授の論文を引用している。そこで、消費者を直接的に害しない共同の買手独占をどのように規制すべきかが問題となる。
買手間の共同行為に対しては、当然違法の原則を適用するMandeville事件連邦最高裁判決の基準と、下級審で見受けられる消費者厚生への影響を分析し合理の原則に基づく違法性判断基準が存在する。しかし、買手間のカルテルに当然違法の原則を適用したMandeville事件連邦最高裁判決を覆す連邦最高裁判決は未だ出ていない。従って、現在のところ、売手、買手の区別なく、買手間のカルテルを当然違法としたMandeville判決の先例拘束性が維持されている。
我が国独禁法における買手間の共同行為規制については、まず、共同の買手独占が社会厚生の観点からは競争促進的な側面がある一方で協調行為に繋がり得ること、そして、買手独占理論を根拠とした正当化事由は、行為要件を通じて競争の過程を保護してきた我が国独禁法の体系を損ないかねないことに留意しなければならない。
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