2013年4月5日金曜日

米国反トラスト法における買手市場支配力規制―企業結合規制を中心として

このほど、拙稿「米国反トラスト法における買手市場支配力規制-企業結合規制を中心として」法学政治学論究95号、1‐34頁(2012)が掲載されました。私の研究テーマである買手市場支配力の企業結合規制について取り扱ったものです。是非コメント等頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

<要約>
 従来、競争法は、市場への反競争効果に対する規制という観点からみると、製造業者を代表とした、主に売手の行為に着目した規制を行なってきた。しかしながら、昨今の大規模小売業者の台頭に伴い、供給業者対して交渉力を有する小売業者の存在は、競争法上の新たな課題を生じさせている。そして、大規模小売業者のような交渉力を有する買手に関する規制を検討する上で、買手市場支配力が注目されている。
 この点、買手市場における寡占化の問題を抱える国の一つであり、我が国独禁法の母法ともいうべき米国反トラスト法では、買手市場支配力に関する企業結合規制について、判例の蓄積が見られる 。米国反トラスト法では、買手市場支配力の議論の進展により、判例法や競争当局の水平合併ガイドラインを通じて買手市場支配力規制がおこなわれているが、それと同時に課題にも直面している。
 買手市場支配力の推定方法について、市場支配力の推定については、買手に対しては相対的に低い市場シェアにより市場支配力を推定し得るとの見解があるが、最高裁や競争当局は、売手と買手の区別なく対称的な取扱いをし、売手の市場支配力の推定と同種の基準を用いるとしている。その一方で、Staples事件のように、「価格証拠」を用いて市場画定の段階で、ローカルや特定の市場に狭く画定し、市場シェアを高く認定する場合が見られる。しかし、Staples事件のように必ずしも「価格証拠」が得られる訳ではないため、買手市場支配力の立証が困難となる。
 また、買手の市場支配力の認定に際して、消費者への影響がある場合にのみ規制すべきかについて、見解が分かれている。上流市場において買手独占者である買手が、同時に下流市場で売手でもある場合、下流市場でも市場支配力を有する場合は、社会厚生の損失は、単なる買手独占の場合よりも大きい。しかし、単に上流市場で買手独占である場合でも社会厚生の損失は生じるのであるから、買手市場支配力の認定に際して、消費者へ影響を与えるものに限定しないことが妥当だと思われる。
 双方独占や拮抗力については、賛否両論がある中で、有力な買手事業者の抗弁をどのような場合に認めるべきか、そして、効率性の抗弁との異同を明らかにする必要もある。この点2010年水平企業結合ガイドラインによれば、効率性とは別に、有力な買手事業者の抗弁に言及しており、企業結合当事者の価格の引き上げの能力を制限する場合として、(1)上流市場を垂直統合する能力がある場合、(2)新規参入を後押しする能力とインセンティブを有する場合、(3)大規模な買手の行為または存在が協調効果を弱める場合が挙げられている。有力な買手事業者に関連して、我が国独禁法では、需要者の競争圧力として言及されているが、学説・判例の蓄積が少ない我が国独禁法の企業結合規制に一定の示唆があるものと考える。

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