「買手市場支配力規制における違法性判断基準―米国における展開を中心として―」
(日本経済法学会年報第 35 号通巻 57 号、2014 年)
に至る買手市場支配力規制に関する一連の研究業績が、
横田正俊記念賞を受賞することができました。
http://www.koutori-kyokai.or.jp/activity/yokota_prize/2014yokota.pdf
横田賞は毎年発表された経済法の若手研究者の論文のうち、
最優秀と認められたもの授与される賞です。
これまで御指導賜った諸先生方、先輩方に深く感謝申し上げます。
横田賞の名に恥じぬよう、これからも研鑽に励んでまいりたいと思います。
今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
経済法の研究ブログ 渕川和彦
経済法を中心とした研究ブログです。自分の研究にかかわる報道や、メモを掲載しています。
2015年4月22日水曜日
2015年4月10日金曜日
神鉄タクシー事件
渕川和彦「物理的妨害による取引妨害の事例‐神鉄タクシー事件」ジュリスト1469号96~99頁(2014)
神鉄タクシー事件(神戸地裁平成26年1月14日判決)は、神戸市北区の神戸電鉄沿線で営業している神鉄タクシーが神戸電鉄北鈴蘭台駅前及び鈴蘭台駅のタクシー待機場所(以下、「本件タクシー待機場所」)に乗り入れた個人タクシーに対して、立ちはだかったり、座り込んだりするなどの物理的妨害を行った事件です。
神戸地裁判決では、物理的妨害により不公正な取引方法一般指定14項の取引妨害に該当し、独禁法19条違反項を認定したものの、独禁法24条に基づく差止請求を認容するには損害賠償よりも高度な違法性を要するとする違法性段階説を採用し、独禁法24条に規定されている「著しい損害」が認められる場合として①市場から排除されるおそれがある場合や新規参入が阻止されている場合等独禁法違反行為によって回復し難い損害が生じる場合(以下、判決①基準)、②金銭賠償では救済として不十分な場合を挙げました。その結果、地裁は他の営業地域(西鈴蘭台駅、社会保険病院など)で売り上げがあること、長期にわたりタクシー営業を営んできたことを理由に「著しい損害」を否定し差止請求を棄却しました。
これに対して、拙稿では、本件で問題となっている「市場」は漠然とした営業地域ではなく、「本件タクシー待機場所」であり、「市場」での継続的な損害が、他の営業地域の売り上げや過去の営業実績により認められなければ、「著しい損害」の判決①基準が無意味化してしまうことを指摘しました。
さらに、立法者意思に立ち返れば、本来、被侵害利益の種類・程度と加害行為の態様との相関関係で違法性を判断すべきです。物理的妨害は取引妨害のなかでも競争手段の不公正さの悪質性が非常に強いことに鑑みれば、本件地裁判決のように、私人の被侵害利益のみを捉え、取引妨害行為の態様・経緯について評価していない点には疑問の余地があるとの評釈を行いました。
その後の控訴審(大阪高裁平成26年10月31日判決)では、「鈴蘭台駅及び北鈴蘭台駅付近には、本件各タクシー場所のほかには、客待ちのためにタクシーが待機するのに適した場所はなく・・・本件タクシー待機場所におけるタクシー利用者が・・・『同一の需要者』にあたる」として本件タクシー待機場所を検討対象となる「市場」と捉えております。
そして、物理的な妨害が一般指定14項にいう不当な取引妨害に該当すると述べた上で、「損害の内容、程度、独禁法違反行為の態様等を総合勘案すると、原告らが被告の独禁法19条違反行為によって利益を侵害され、侵害されるおそれがあることによって生じる損害は著しものというべきである」として、地裁判決を覆し、独禁法24条に基づく差止請求を認めました。
大阪高裁判決が「本件タクシー待機場所」を「市場」として捉えている点、そして私人の侵害利益だけでなく、加害行為の態様を総合勘案している点は拙稿の見解を採用して頂いたものと評価できます(泉水文雄「判批」公正取引772号48頁、伊永大輔「判批」ジュリ1477号90頁)。
是非、神鉄タクシー事件の地裁判決、高裁判決とともに拙稿をご覧いただければ幸いです。
2014年5月8日木曜日
住友電工が株主代表訴訟で5億2000万円にて和解
住友電工が光ケーブルや自動車用電線のワイヤーハーネスの販売においてカルテルした事件をめぐり株主代表訴訟が提起されていましたが、5月7日、当時の役員らが会社に5億2000万円の解決金を支払う旨の和解が大阪地裁で成立したようです。
株主側は、住友電工の経営陣が、カルテル防止義務を怠った上、課徴金減免制度を活用しなかったことで会社に損害を与えたと主張していました。
カルテル防止の内部統制の整備はもちろんのことですが、課徴金減免制度を活用しなければ、株主代表訴訟が提起される良い例ではないかと思われます。
日経新聞電子版2014年5月7日参照
<http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG07050_X00C14A5EA2000/>
株主側は、住友電工の経営陣が、カルテル防止義務を怠った上、課徴金減免制度を活用しなかったことで会社に損害を与えたと主張していました。
カルテル防止の内部統制の整備はもちろんのことですが、課徴金減免制度を活用しなければ、株主代表訴訟が提起される良い例ではないかと思われます。
日経新聞電子版2014年5月7日参照
<http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG07050_X00C14A5EA2000/>
2013年11月29日金曜日
オリエンタル白石への課徴金の返還
オリエンタル白石事件審決取消訴訟(東京高判平25・5・17)
会社更生法による更生計画認可により、課徴金債権が免責された事件です。
プレストレスト・コンクリート工事として発注する橋梁の新設工事の入札談合に関するものですが、
違反事業者のオリエンタル白石は、平成20年12月31日に会社更生法41条に基づく更生手続開始を行い、その後平成23年6月15日に課徴金納付命令、同年10月24日に会社更生法239条に基づき更生手続終結の決定がされております。
その後、平成24年9月25日に課徴金納付を命ずる審決が出たため、
オリエンタル白石は、課徴金を納付したうえで、
平成24年10月17日審決取り消し訴訟を提起しております。
最終的に東京高裁は、課徴金債権は租税等の請求権に該当するとして、
罰金等の請求権に定められた免責の例外規定を類推適用して、
更生計画認可決定によっても免責されないとすることは許されないとして、
課徴金債権を免責しました。
これを受け、平成25年6月4日に、公取委は、
1日分の利息分も含め、5億3737万3602円を返還しています。
現行法上、確かに明文の規定がない限り法解釈上厳しいかもしれませんが
(ここはもう少し詰めたいと思います)、課徴金納付を免れる手段として悪用されないように、
今後、立法も含めて考えなければならない問題のように思われます。
会社更生法による更生計画認可により、課徴金債権が免責された事件です。
プレストレスト・コンクリート工事として発注する橋梁の新設工事の入札談合に関するものですが、
違反事業者のオリエンタル白石は、平成20年12月31日に会社更生法41条に基づく更生手続開始を行い、その後平成23年6月15日に課徴金納付命令、同年10月24日に会社更生法239条に基づき更生手続終結の決定がされております。
その後、平成24年9月25日に課徴金納付を命ずる審決が出たため、
オリエンタル白石は、課徴金を納付したうえで、
平成24年10月17日審決取り消し訴訟を提起しております。
最終的に東京高裁は、課徴金債権は租税等の請求権に該当するとして、
罰金等の請求権に定められた免責の例外規定を類推適用して、
更生計画認可決定によっても免責されないとすることは許されないとして、
課徴金債権を免責しました。
これを受け、平成25年6月4日に、公取委は、
1日分の利息分も含め、5億3737万3602円を返還しています。
現行法上、確かに明文の規定がない限り法解釈上厳しいかもしれませんが
(ここはもう少し詰めたいと思います)、課徴金納付を免れる手段として悪用されないように、
今後、立法も含めて考えなければならない問題のように思われます。
2013年7月19日金曜日
パナと三洋に罰金57億円
米国司法省は7月18日、パナソニックとその子会社である三洋にたいして、約57億円の罰金の支払うことに合意したとの発表をしました。
報道によれば、パナソニックは自動車部品のスイッチ類の部品に関する価格協定について、三洋はノートブックパソコンに用いられる、リチウムイオン電池に関してLGと行った価格協定について、それぞれ違反を認めたようです。
主に米国で販売される自動車用部品のスイッチについては、トヨタ、ホンダ、マツダ、ニッサンが購入していたようです(現地法人を含む)。
日本の会社のカルテルにより、現地法人を含む日本自動車メーカーが被害を被り、それを米国競争当局が取り締まっているという少し変わった構図になっています。
日本の会社に対する米国独占禁止法(シャーマン法1条)の適用ですが、現地法人はいいとして、日本を拠点とする日本自動車メーカーに対するカルテルは本来であれば公取委が取り締まるべきとも思われます。
最終的に消費者が公正な価格で自動車が購入できるようになるというのであれば良いのではないかと思いますが、くわしく見ると論点が多く含まれていそうです。DOJのプレスリリースには、詳細な事実が書かれていないので残念です。
DOJのプレスリリースをみる限り、リニエンシーがされたかどうかについては不明でしたが、これから情報が出てくるかもしれませんね。
報道によれば、パナソニックは自動車部品のスイッチ類の部品に関する価格協定について、三洋はノートブックパソコンに用いられる、リチウムイオン電池に関してLGと行った価格協定について、それぞれ違反を認めたようです。
主に米国で販売される自動車用部品のスイッチについては、トヨタ、ホンダ、マツダ、ニッサンが購入していたようです(現地法人を含む)。
日本の会社のカルテルにより、現地法人を含む日本自動車メーカーが被害を被り、それを米国競争当局が取り締まっているという少し変わった構図になっています。
日本の会社に対する米国独占禁止法(シャーマン法1条)の適用ですが、現地法人はいいとして、日本を拠点とする日本自動車メーカーに対するカルテルは本来であれば公取委が取り締まるべきとも思われます。
最終的に消費者が公正な価格で自動車が購入できるようになるというのであれば良いのではないかと思いますが、くわしく見ると論点が多く含まれていそうです。DOJのプレスリリースには、詳細な事実が書かれていないので残念です。
DOJのプレスリリースをみる限り、リニエンシーがされたかどうかについては不明でしたが、これから情報が出てくるかもしれませんね。
2013年4月5日金曜日
米国反トラスト法における買手市場支配力規制―企業結合規制を中心として
このほど、拙稿「米国反トラスト法における買手市場支配力規制-企業結合規制を中心として」法学政治学論究95号、1‐34頁(2012)が掲載されました。私の研究テーマである買手市場支配力の企業結合規制について取り扱ったものです。是非コメント等頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。
<要約>
従来、競争法は、市場への反競争効果に対する規制という観点からみると、製造業者を代表とした、主に売手の行為に着目した規制を行なってきた。しかしながら、昨今の大規模小売業者の台頭に伴い、供給業者対して交渉力を有する小売業者の存在は、競争法上の新たな課題を生じさせている。そして、大規模小売業者のような交渉力を有する買手に関する規制を検討する上で、買手市場支配力が注目されている。
この点、買手市場における寡占化の問題を抱える国の一つであり、我が国独禁法の母法ともいうべき米国反トラスト法では、買手市場支配力に関する企業結合規制について、判例の蓄積が見られる 。米国反トラスト法では、買手市場支配力の議論の進展により、判例法や競争当局の水平合併ガイドラインを通じて買手市場支配力規制がおこなわれているが、それと同時に課題にも直面している。
買手市場支配力の推定方法について、市場支配力の推定については、買手に対しては相対的に低い市場シェアにより市場支配力を推定し得るとの見解があるが、最高裁や競争当局は、売手と買手の区別なく対称的な取扱いをし、売手の市場支配力の推定と同種の基準を用いるとしている。その一方で、Staples事件のように、「価格証拠」を用いて市場画定の段階で、ローカルや特定の市場に狭く画定し、市場シェアを高く認定する場合が見られる。しかし、Staples事件のように必ずしも「価格証拠」が得られる訳ではないため、買手市場支配力の立証が困難となる。
また、買手の市場支配力の認定に際して、消費者への影響がある場合にのみ規制すべきかについて、見解が分かれている。上流市場において買手独占者である買手が、同時に下流市場で売手でもある場合、下流市場でも市場支配力を有する場合は、社会厚生の損失は、単なる買手独占の場合よりも大きい。しかし、単に上流市場で買手独占である場合でも社会厚生の損失は生じるのであるから、買手市場支配力の認定に際して、消費者へ影響を与えるものに限定しないことが妥当だと思われる。
双方独占や拮抗力については、賛否両論がある中で、有力な買手事業者の抗弁をどのような場合に認めるべきか、そして、効率性の抗弁との異同を明らかにする必要もある。この点2010年水平企業結合ガイドラインによれば、効率性とは別に、有力な買手事業者の抗弁に言及しており、企業結合当事者の価格の引き上げの能力を制限する場合として、(1)上流市場を垂直統合する能力がある場合、(2)新規参入を後押しする能力とインセンティブを有する場合、(3)大規模な買手の行為または存在が協調効果を弱める場合が挙げられている。有力な買手事業者に関連して、我が国独禁法では、需要者の競争圧力として言及されているが、学説・判例の蓄積が少ない我が国独禁法の企業結合規制に一定の示唆があるものと考える。
<要約>
従来、競争法は、市場への反競争効果に対する規制という観点からみると、製造業者を代表とした、主に売手の行為に着目した規制を行なってきた。しかしながら、昨今の大規模小売業者の台頭に伴い、供給業者対して交渉力を有する小売業者の存在は、競争法上の新たな課題を生じさせている。そして、大規模小売業者のような交渉力を有する買手に関する規制を検討する上で、買手市場支配力が注目されている。
この点、買手市場における寡占化の問題を抱える国の一つであり、我が国独禁法の母法ともいうべき米国反トラスト法では、買手市場支配力に関する企業結合規制について、判例の蓄積が見られる 。米国反トラスト法では、買手市場支配力の議論の進展により、判例法や競争当局の水平合併ガイドラインを通じて買手市場支配力規制がおこなわれているが、それと同時に課題にも直面している。
買手市場支配力の推定方法について、市場支配力の推定については、買手に対しては相対的に低い市場シェアにより市場支配力を推定し得るとの見解があるが、最高裁や競争当局は、売手と買手の区別なく対称的な取扱いをし、売手の市場支配力の推定と同種の基準を用いるとしている。その一方で、Staples事件のように、「価格証拠」を用いて市場画定の段階で、ローカルや特定の市場に狭く画定し、市場シェアを高く認定する場合が見られる。しかし、Staples事件のように必ずしも「価格証拠」が得られる訳ではないため、買手市場支配力の立証が困難となる。
また、買手の市場支配力の認定に際して、消費者への影響がある場合にのみ規制すべきかについて、見解が分かれている。上流市場において買手独占者である買手が、同時に下流市場で売手でもある場合、下流市場でも市場支配力を有する場合は、社会厚生の損失は、単なる買手独占の場合よりも大きい。しかし、単に上流市場で買手独占である場合でも社会厚生の損失は生じるのであるから、買手市場支配力の認定に際して、消費者へ影響を与えるものに限定しないことが妥当だと思われる。
双方独占や拮抗力については、賛否両論がある中で、有力な買手事業者の抗弁をどのような場合に認めるべきか、そして、効率性の抗弁との異同を明らかにする必要もある。この点2010年水平企業結合ガイドラインによれば、効率性とは別に、有力な買手事業者の抗弁に言及しており、企業結合当事者の価格の引き上げの能力を制限する場合として、(1)上流市場を垂直統合する能力がある場合、(2)新規参入を後押しする能力とインセンティブを有する場合、(3)大規模な買手の行為または存在が協調効果を弱める場合が挙げられている。有力な買手事業者に関連して、我が国独禁法では、需要者の競争圧力として言及されているが、学説・判例の蓄積が少ない我が国独禁法の企業結合規制に一定の示唆があるものと考える。
2012年12月10日月曜日
欧米の流通市場における買手市場支配力の競争への影響について
2012年11月に「公正取引」745号に、拙稿「欧米の流通市場における買手市場支配力の競争への影響について-大規模小売業を中心として-」公正取引745号18頁(2012)が掲載されました。
今回は「中小企業と競争政策」という特集に論文を掲載をさせて頂くという大変光栄な機会を頂戴いたしました。
買手市場支配力が問題となる背景や競争法上問題となるメカニズムなどを説明して、米欧の買手市場支配力規制を比較法的観点から考察して、日本の独禁法への示唆を試みています。
ご意見、ご批判賜りたく存じますので、是非ご覧いただければ幸いです。
今回は「中小企業と競争政策」という特集に論文を掲載をさせて頂くという大変光栄な機会を頂戴いたしました。
買手市場支配力が問題となる背景や競争法上問題となるメカニズムなどを説明して、米欧の買手市場支配力規制を比較法的観点から考察して、日本の独禁法への示唆を試みています。
ご意見、ご批判賜りたく存じますので、是非ご覧いただければ幸いです。
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