2012年12月10日月曜日

欧米の流通市場における買手市場支配力の競争への影響について

2012年11月に「公正取引」745号に、拙稿「欧米の流通市場における買手市場支配力の競争への影響について-大規模小売業を中心として-」公正取引745号18頁(2012)が掲載されました。

今回は「中小企業と競争政策」という特集に論文を掲載をさせて頂くという大変光栄な機会を頂戴いたしました。

買手市場支配力が問題となる背景や競争法上問題となるメカニズムなどを説明して、米欧の買手市場支配力規制を比較法的観点から考察して、日本の独禁法への示唆を試みています。

ご意見、ご批判賜りたく存じますので、是非ご覧いただければ幸いです。

ヤマダ電機によるベスト電器の買収

2012年12月10日に公取委はヤマダ電機によるベスト電器の買収を認めました。市場画定について、「家電量販店における家電小売業」を役務範囲として、地理的市場は、顧客の買い回り行動を念頭におき、店舗を中心に半径10キロメートルと画定しています。さらに、253地域における競争状況を検討した上で、市場シェアが高まる10地域を特定して、当該地区における店舗を競争事業者に譲渡する問題解消措置を講じることで企業結合を認めております。

自分が共同執筆した共同研究報告書「流通市場における買手パワー(Buyer Power)の競争への影響について-大規模小売業者を中心として-」公正取引委員会競争政策研究センターCR 04-10(2010)の第4章(http://www.jftc.go.jp/cprc/reports/cr-0410.pdf
および、平成23年12月9日の第28公開セミナー「流通市場における買手パワーの競争への影響について」での報告内容が反映されています(http://www.jftc.go.jp/cprc/seminar/28/notice.html)。
以前のエディオン・ミドリ電化の企業結合事例から大きな改善がみられ、ヤマダ電機・ベスト電器の企業結合事例の判断は評価できるものだと思います。

自分の研究が社会に少しでも役立つということを実感できて大変感慨深いものがありました。
これからも社会に還元できるような研究を心がけてまいりたいと思います。


2012年6月22日金曜日

東京電力による法人値上げに関する優越的地位の濫用

公正取引委員会は、6月22日、東京電力に対して、自由化対象需要家(50キロワット以上の需要家。例:大規模工場、オフィスビル、中小規模の工場、スーパー等)向け電気料金の引き上げについて、優越的地位の濫用(独禁法2条9項5号)に該当し、不公正な取引方法を禁止する独禁法19条に違反するおそれがあるとして注意を行いました。

自由化対象需要家は、東電との取引関係において、取引の継続が困難になれば事業経営上大きな支障を来たし、東電が著しく不利益な取引条件の提示等を行っても、自由化対象需要家は、これを受け入れざるを得ない状況にあります。したがって、東電は自由化対象需要家との取引関係において、優越的地位にあります。

東電は、あらかじめの合意がないにも拘わらず、①平成24年4月1日以降の使用に係る電気料金引き上げを一斉に行うとし、②自由化対象需要家のうち、500キロワット未満の需要家(中小規模の工場、スーパーなど)に対して、異議の連絡が無い場合には電気料金引き上げの合意があったとみなすとして書面により電気料金引き上げの要請を行いました。

優越的地位にある東電と自由化対象需要家との間の契約に関しては、自由な意思に基づく契約は望めず、代替的な取引先が見いだすことができない自由化対象需要家は、不利な契約条件をのまざるを得ないという状況に立たされています。今回の公取委の東電による法人値上げに関する優越的地位の濫用に対する注意は評価されるべきだと思います。

一方、新聞報道によれば、東電は家庭向けの電気料金の平均10.28%引き上げを経産省に申請しており、経産省の有識者会議「電気料金審査専門委員会」で近々結論が出される予定です。経産省は、電気料金審査専門委員会の結論や、公正取引委員会、消費者委員会、消費者庁の意見を踏まえて、東電に再申請を指示し、東電は家庭向け電気料金の引き上げを8月1日に改めて再申請する見通しのようです(2012年6月20日読売新聞 YOMIURI ONLINE参照)。

公取委は、東電による法人向け電気料金値上げだけでなく、家庭向け電気料金値上げの問題についても、経産省、消費者委員会、消費者庁と一体となって、取り組んで頂きたいものです。

2012年3月28日水曜日

100円ショップの下請法違反

公取委は、3月27日、株式会社大創産業(100円ショップ「ザ・ダイソー」)が下請業者178名に対して、総額約2億7946万円を下請代金から減額していたとして、下請法4条1項3号(下請代金の減額の禁止)に違反するとして同社に勧告をしたようです。100円ショップには良くお世話になっていたので残念ですが、低価格の背景にこのような搾取はあってはならないことだと思います。

イージートーンの再販売価格維持

公取委は、3月2日、アディダス・ジャパンに対して、「EASYTONE(イージートーン)」(アディダス傘下のリーボックのブランド)の再販売価格維持行為について、排除措置命令を出しました。イージートーンとは、靴のソールにバランスボールが内蔵されていて、シェイプアップ効果を売りにしている人気商品です。アディダス・ジャパンは、小売業者の一般消費者に対する販売価格として自ら希望する価格を本体価格と値引き限度価格を定め、値引き限度価格を下回る価格で販売する事業者には、出荷停止したり、在庫を返品させていたようです。知り合いにイージートーンを履いている人がいたので、独禁法の問題を改めて身近に感じました。良質廉価な商品を消費者に販売してもらいたいものです。

米国反トラスト法における買手事業者間の共同行為規制

このほど、拙稿「米国反トラスト法における買手事業者間の共同行為規制―買手独占理論を素材として―」が競争政策研究センターのディスカッション・ペーパーとして公正取引委員会のHPに掲載されました。法学政治学論究89号25頁(2011)を加筆修正したものです。是非ご覧ください。

「米国反トラスト法における買手事業者間の共同行為規制-買手独占理論を素材として-」CPDP55-J(2012.3)
http://www.jftc.go.jp/cprc/DP/CPDP-55-J.pdf

<概要>
 従来,買手の市場支配力が競争法上問題となる事例は必ずしも多くなく,主に売手側の市場支配力が問題とされてきた。しかし,強力な買手(例えば大規模小売業)の出現により,競争法は買手独占への理論的対応を迫られている。買手独占とは,買手により競争水準以下に価格が引き下げられた場合,供給量が減ることで社会厚生の損失が生じることを指す。また,買手間の共同行為により買手独占が生じることを共同の買手独占と呼ぶ。
 この点,米国反トラスト法では,1948年Mandeville判決において,反トラスト法の保護は,売手,買手の区別なく及ぶと判示したことにより,買手間のカルテルは,売手間のカルテル同様,当然違法であると解されている。しかし,1991年にBlair教授とHarrison教授により買手独占理論が体系化された後,下級審では買手間の共同行為を買手独占理論に言及しながら合理の原則で判断した事例が見受けられる。ただし,現在のところ Mandeville判決は先例拘束力を有している。
 我が国独占禁止法における買手間の共同行為の不当な取引制限該当性を検討する上で,まず,共同の買手独占が社会厚生の観点からは競争促進的な側面がある一方で協調行為につながり得ること,そして,買手独占理論を根拠とした正当化事由は,行為要件を通じて競争の過程を保護してきた我が国独占禁止法の体系を損ないかねないことに留意しなければならない。

2012年2月15日水曜日

JASRAQの私的独占違反の排除措置命令取り消し

音楽使用料の包括徴収に関して公正取引委員会は私的独占違反の排除措置命令を出していたが、公取委は当該排除措置命令を取り消す旨の審決案をJASRAQに送ったようです。公取委は、放送局が事業収入の1.5%を支払えばJASRAQの管理楽曲を使用できる「包括的利用許諾契約」が管理楽曲の放送比率に反映されていないため、新規事業者の参入を阻害するため、放送比率に応じた使用料の仕組みを作ることを求める排除措置を命じていた。JASRAQ側によると、新規業者が管理する歌手大塚愛さんの楽曲「恋愛写真」の場合、06年10月中に少なくとも515回、10月から12月までの3カ月間では少なくとも729回放送されていたようです。審決が確定すれば1994年のエレベータ保守業者の事件から18年ぶりに違反認定した事件を審判で無罪とすることになります。
2012年2月3日日本経済新聞朝刊34頁参照

東京証券取引所と大阪証券取引所の経営統合、2次審査入り

公正取引委員会は、2月3日、東京証券取引所と大阪証券取引所の経営統合の2次審査に張ったようです。90日以内に公取委は経営統合の是非の最終判断を行います。両社の主な事業として「有価証券の上場に関する役務」や「相場情報などの提供に関する役務」など5分野が挙げられており、これらの市場において競争を実質的に制限することとなるかが判断されるようです。
2012年2月3日、日経新聞夕刊3頁参照

国際航空貨物利用運送業務運賃カルテル事件

ジュリスト2月号(1437号)に私の判例評釈が掲載されました。
渕川和彦「国際航空貨物利用運送業務運賃カルテル事件」『ジュリスト』1437号、2012年、88‐91頁

国際航空貨物利用運送業務(以下、本件業務)を行う事業者、通称フォワァーダーである西日本鉄道株式会社ほか2社が本件業務に関する料金についてカルテルを行ったものです。本件の特徴は、本件違反行為を、共同して本件合意により本件業務の取引分野における競争を実質的に制限することとしながら、本件合意の範囲を4料金に限定し、課徴金算定の対象をこの4料金の売上額としている点にあります。本件では、14社は、繰り返し国際部会役員会の会合を開催し、本来であれば、競争相手に対して秘密にするはずの、自社の取引先との交渉内容、交渉経過等の情報を披れきし合い、取引先に対する競合他社の行動についての情報を入手してその動向を把握していていました。航空運賃の部分については、その額を転嫁せずに各社が混載(到着地が同一の貨物をまとめること)によって調整することが可能でした。燃油サーチャージに関しては、他社の過去の行動を把握し、将来の行動を予測した上で、自社の行動を決定することができたものと推認されており、各社とも取引先に対して同一の行動を取っていた。さらに、公取委は、4料金を競争の手段として荷主と交渉し、他社から顧客を奪おうとしたり、従前と比較して取引量を増やそうとしたりした具体的事例がうかがえないという事後の行動の一致を認定しています。以上の認定事実からすれば、本件合意を単に4料金について行なわれたとみるのは経験則に反し、本件業務の運賃及び料金全体について行なわれたとみるのが妥当である。14社の本件業務の取引分野における協調的行動に関する「意思の連絡」を推認するべきであったと考えられます。

なお、欧米競争当局は、航空会社間の国際航空運賃及び燃料サーチャージの価格カルテルを規制していますが、日本の公取委は、航空会社間の国際航空運賃及び燃油サーチャージの価格カルテルについては、現在のところ規制していません。他方、本件業務に関しては、航空法のような独禁法上の適用除外規定は存在せず、独禁法が直接適用されることとなります。
本件被審人らによる燃油サーチャージ等に係る価格カルテルについては、本審決のほか、日新課徴金事件審判審決平23・5・10審決集未登載、郵船ロジスティクス課徴金事件審判審決平23・7・6審決集未登載などがあります。また、米国司法省も同一事件の規制を行っており、2011年9月30日に13社が総額1億ドルの罰金を支払うことで司法取引に合意しています。